島キャン2018年夏 ましゅ屋
私の主な業務は塩づくりでした。塩づくりの師匠には、「自分で考える」大切さを教えていただきました。塩は、①火をおこす②海水をくむ③海水を沸騰させる④海水に混じったゴミをとる⑤海水をたす⑥再び海水に混じったゴミをとる⑦塩をあげる⑧にがりを落とす⑨とりきれなかった小さなゴミをお箸でとる というなんともシンプルな工程でできあがります。しかし、師匠にはこの工程を口で説明していただいた以外には何も教わっていません。火おこしのための木のくべ方も、海水のくみ方も、塩をあげるタイミングも、詳しく教わった覚えは一切ありません。就業2日目に人生で初めて火起こしをすることになったのですが、その時も「16:00になったら火をおこして」以外に何も師匠から言われませんでした。上手く火がつくか心配で、火起こしのコツや手順を聞いても「任せる」の一言で返されました。これは師匠が冷たかったからではありません。どうすれば手持ちの道具で上手くできるのか、自分で考えて行動するように私を教育してくれたのです。私が不慣れな火起こしに、10本ものマッチを無駄にしている間も、師匠はずっと黙って火がつくまで待っていました。
たいていの学校では、先生が"正解"を教えて生徒がそれを真似することで新たな知識や経験を増やしていきます。例えば、数学では公式を、理科ではガスバーナーの使い方を、お昼休みには給食の配膳の仕方を、放課後には教室の清掃の仕方を、先生が最初に説明してくれて生徒はその通り従うだけです。けれど、ましゅ屋では違いました。師匠が先に"正解"を見せてくれることはありませんでした。その代わり、どうすれば火が早くおこせるだろう、どうすれば早く海水をタンクに入れられるだろう、どうすれば綺麗に海水に混じったゴミをとれるだろう、と自分で考え抜くことができました。
"正解"を真似するのも良いけれど、自分で"正解"を探すのもとても魅力的だということに気付かされたましゅ屋での就業でした。
徳之島の人はとにかくみんなおしゃべり好きでした。道で会えば車を一時停車してでも話すし、お店で買い物をする時も店員さんと必ず立ち話をします。仕事が終わればご近所さんがビールとお菓子を持って集まり、話に花が咲きます。私も仕事後に師匠と他愛のない話をして気づけば21:00だったということも珍しくありませんでした。全国的に見て徳之島は決して裕福な地域、栄えている地域、人口が多い地域ではありません。しかし、大らかでおしゃべり好きな島の人々は、心から島を愛し、島での生活を楽しんでいました。
就業中にいくつもの島料理に出会いました。卵おにぎり、長命草の天ぷら、鳥汁、舟焼き、ジマム豆腐、ジマム菓子......。 本州にいれば一生出会わなかった味かもしれません。食に目がない私には毎日のご飯の時間が天国のようでした。毎日私にエネルギーと新しい味に対する驚きや喜びを与えてくださったましゅ屋の郁代さんに感謝の言葉が尽きません。