上五島で過ごした学生最後の夏休み
私が就業していた「五島バックパッカーズぽれ」さんは、上五島で一番有名なビーチ「蛤浜」のすぐ裏にあり、オープンして1年半の新しいゲストハウスです。おしゃれで綺麗なゲストハウスで、夏のハイシーズンということもあり、毎日たくさんのお客さんがいらっしゃいました。
私の仕事は主に、掃除、洗濯、ベッドメイキング、接客です。これらの仕事は、夕方のチェックイン時の接客を除いて、基本的にお客さんから見えない仕事です。むしろ、掃除や洗濯など音を出してしまう仕事なので、お客さんがいないところでやらなくてはなりません。しかし、私は、昼から他のお店で働いていたこともあり、朝のうちに早く掃除を済ませたく、お客さんがまだチェックアウトしていないことに気づかずに掃除をしてしまうというミスをしてしまいました。
また、オーナーさんは消灯後やぽれでBBQをしている合間にも、洗面所の髪の毛を取るなど、常にお客さんが快適に使ってもらえるように気配りを怠らない姿を見て、私は自分の都合に合わせて仕事をしてしまっているなということを痛感しました。
これ以降私は、手が空いた時間に床の髪の毛や砂を取ったり、お客さんにおすすめの飲食店や観光地を紹介するなど、できることをひとつひとつこなしました。このように、見えないところでの小さな気配りの積み重ねによって、ぽれが多くのお客さんから愛されるゲストハウスになっているんだなと実感しました。
今までいくつかの離島を回ってきましたが、上五島(新上五島町)に来てすぐに思ったことは、「なんでも揃っていて、車も多いし、栄えている島だな」ということです。スーパー、24時間営業のコンビニ、ホームセンター、ドラッグストア、居酒屋、カフェ・・・など、必要な店は街の中心に全部そろっている一方、「あんまり、島っぽさがないのかな?」という不安もありました。しかし、その不安はすぐに晴れました。ぽれや麺'sはまさきに来ていたお客さんとスーパーで再会したり、地元の方がぽれに遊びに来てくれたり・・・そういった、都会にはない、密なコミュニティがありました。また、自転車で島を回ってみると、漁師の方、観光協会の方に声をかけられて、道を教えていただいたり、行先まで車で送っていただいたり、島の方の親切さと都会から来た自分を受け入れてくれる温かさを感じました。
このように、必要なものが揃っていて、海も山も大自然がすぐ近くにあって、親切な人ばかりの上五島でも、「若者がいない」「仕事がない」ということは、島の方々がよく仰っていました。島の高校では、160人中5・6人しか島に残らず、あとは皆島から出て行ってしまうそうです。しかし私は、「この島ほどIターンに向いてる島はないな」と思いました。便利で、交通の便もよく、空き家が多く住むところもある。そして、豊かな海がすぐ近くにあって、親切な人ばかり。「仕事がない」という問題はありますが、ぽれを含めて、有川周辺では最近、若い方が飲食店や民宿を始めています。新しい仕事を始めることに関しては、環境が整っている島ではないかなと思いました。
上五島で生活する中で、東京での生活と一番違いがあると感じた部分は、コミュニケーションです。東京にはたくさんの人がいるけれど、よく考えてみると、実際に関わりを持ったり、会話する人はごくわずかだったりします。また、日によっては、人としゃべる回数があまり多くない日もあるし、ましてや、見ず知らずの人と話すことはほとんどありません。
しかし、島で生活していると、ゴミ出しに行くだけで、おばあちゃんが話しかけてきたり、バスの運転手さんがおすすめの飲食店を教えてくれたり、釣りをしていて漁師さんが話しかけてきたり・・・と、一日のうちで新しい人との出会いがたくさんあります。初めて出会った人と会話して、新しい発見があったり、自分に興味を持ってくれたり、人脈が広がったりする楽しさ。これは、東京では味わうことができない楽しさで、島での生活での一日一日が充実していた大きな要因ではないかなと思いました。
東京にいると当たり前だけど気づけない、初対面の人と会話する楽しさ。これを知れたということは今後生きていくうえでもとても大切なことだと思いました。