上五島のくらし方
「世の中を変えるには3つの方法がある。1つ目は法律を変える、2つ目は技術革新、3つ目は意識を変える。僕がやっているのは主に3つ目だね。」こう語るのは塩作りをしながら、‘くらしの学校「えん」’を営む小野敬さん。年に3回、小中学生を対象に野外キャンプを実施し、自給自足に近い生活を送っている。ここで私は日々のくらしを通して人を変える方法を学んだ。
私の「えん」での朝は海から昇る太陽を眺めて始まった。薪で炊いたご飯に自家製味噌と畑の野菜の味噌汁、五島の海で捕れたあごの干物をいただき、昼は塩作りや季節の仕事などをする。夜は家族で楽しい食卓を囲んだ後、薪で沸かしたお風呂につかって眠りにつく。季節を感じ、地に足をつけて生きている気がした。ここでの仕事はくらし方そのものであった。
自分が良いと思うものを選択し、良いと思う生活をする。そしてその生活を見せることによって人に良いものを伝える。これが人の意識を変える一番の方法だと教わった。自給自足の生活は人が思う以上に忙しい。しかし不思議なことに心に余裕が生まれる。毎日を大切にそして誠実に生きる「えん」の方々を見て、人を思い、自然を思い、素直に感謝することができた。この感謝の気持ちに気づかせ、未来に残していきたい風景や文化を思い出させてくれる、そんな生活がくらしの学校「えん」にはあった。
上五島の人は島を愛し、島での生活を楽しんでいる。上五島で生活して私はそう感じた。ずっと島に住んでいる人も、一度島を出た人も、移住してきた人も皆そうだった。
島の人は、島外から来た私達にも島を好きになって欲しいと言っていた。そのために、島の色々なお話を聞かせてくれたり、おすすめの場所に連れていってくれたりした。島を紹介する人の顔は笑顔に溢れ、キラキラと輝いて見えた。これは本当に島が好きなことの表れだと思う。
島には美しい自然があり、人の幸せ思える優しい人が住んでいる。また、キリシタンの歴史や豊富な魚介類、椿油を使った伝統料理もある。四季を通してくらしを楽しめる上五島は宝箱のようだった。そして島の人はその宝に気づき大切にしていた。
自分の住む場所を愛し、そこでの生活を心から楽しむ。幸せな生活とはまさにこのことだと気づいた。そして私も、日々のくらしの中に楽しさを見つけ生きていきたいと強く思った。
私はインターンシップ中に新上五島町主催の「海ごみSOSツアー」(Save the Ocean of Shinkamigoto)に参加した。私は、この1泊2日のワークショップで初めて海のごみについて考えた。
まずビーチクリーンアップで漂流ごみの現状を知った。引っ張ると出てくるのは、植物の根ではなく砂まみれになった漁網。白く柔らかいのは白浜の砂ではなく粉々になった発泡スチロール。これらのごみは美しい浜辺にも、無人島にもやって来る。ショックだった。その後のワークショップで、どのようにして海ごみをなくすかを話し合った。様々な案が出たが、まずはより多くの人に現状を知ってもらうのが大切だという結論になった。
自分がごみを捨てた時、そのごみの行く先を考えてみる。燃やされたこのごみは有害な物質を出さないだろうか?川から海に行き、国内外の海岸に漂着しないだろうか...?知って、想像して、行動に移す。個人の小さな行動だが多くの人の意識が変われば世界は変えられると私は信じている。