一生忘れない1,209,600秒
朝4時に起きて授業前に1つ目の職場でアルバイト。放課後は次の職場に向かう。とりあえず給料が貰えればいい。「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました」までの決まり文句を述べて、お客様との会話は終わる。それをひたすら繰り返す。
以前の私は、まるでロボットでした。
就業初日に接客のマニュアルがないと聞いたとき、とても不安な気持ちになったことを覚えています。しかし、やってみれば何とかなるものです。呪文のように定型文を述べるのではなく、お客様との会話を心から楽しみました。すると、次第に接客が楽しいと思えるようになりました。
「してはいけない」が基本のマイナスの接客が私の中では当たり前でした。しかし、島では「お客様のために何ができるか」というプラスの接客が当たり前であると気が付きました。
喜界島では、それぞれの集落が独自の文化を持っています。「あっちの集落は芸達者」、「こっちの集落はみんな話し好き」など、それぞれ特色があることを教えて頂き、祭りなどに参加することで文化が受け継がれる姿を見ました。
一方で消えゆく文化があることも知りました。それは方言です。島に滞在している間は、自分よりもはるかに年が上の方々と食事をする機会が多くありました。そんなときに使われるのは方言。もちろん意味を汲みとることはできませんが、興味津々で聞いていました。しかし、島の若い世代が方言を使っていないことが気になり、疑問として投げかけると、同席した方から「直にこの方言は消える」と悲しい言葉が返ってきました。学校などで方言を使うことが禁じられていた時代の影響もあるそうです。アイデンティティーの拠り所になり得る文化が失われていく過程を目にし、胸が痛みました。
島にいる間はホテルにいらっしゃるお客様はもちろん、勤務地を離れたところでも多くの方との出会いがありました。
ある宴会での出会いがきっかけで追い込み漁を手伝わせて頂いたり、サッカーが趣味であると支配人に話したことで、地域のフットサルチームにも参加させて頂きました。人見知りである私は常に緊張していましたが、見ず知らずの「よそ者」が突然やって来たにも関わらず、島の方はいつも笑顔で歓迎して下さいました。
また、島キャンと書かれた水色のシャツを着て外を歩けば、必ず誰かが声をかけてくれるといったことも本当に嬉しかったです。
島の方にとっては当然のことなのかもしれませんが、あらゆる場所でみんなが電子機器とにらめっこをし、互いに無関心・無干渉の姿勢を貫くことが暗黙の了解となっている世界にいた私からすると、「出会い」の素晴らしさを強く実感する経験でした。